姫君は鬼と踊る



 そんなリンに転機が訪れたのは、都へ渡る「姫巫女」の一行が村を通った時だった。
 姫巫女とは都を守るために招集される呪力をもった少女たちのことだ。地方から集められる姫巫女となる少女たちは名誉なことで、多額の寄付が施されることもあって、娘たちは必ず都へと赴くのだった。
 その姫巫女の一行に目を付けられた凜もまた、姫巫女として都へ上ることが決められたのだ。両親がいないこともあり、ここぞとばかりに出しゃばってきた村長があっという間に承諾してしまったのだ。
 凜の意見なんて、最初から聞いてはいない。凜は都へ行こうが行かまいが、構わなかった。一度、姫巫女として奉公に出たら、もう二度と故郷の土は踏めないと言われた時にも、遠くの地へ嫁に行ったとでも思えば、当たり前の事だった。


  ***


「すっかり上手くなったわね」
 凜が慎重に呪力で積み木を重ねていく。それは既に凜の身長の倍ほど積み上がっていて、物理的には崩れ落ちてもおかしくはなかった。隣で講師代わりの未来が、微笑ましそうに見つめている。凜がここにやってきてから既に二つの季節が廻ろうとが経としている。
   凜が最後の一個を積み上げようと、積み木を浮かせた時、凜の背骨をなぞる様に指が這った。
「……っ!」
 凜の肩が跳ねると、一瞬にして注意力は散漫となり、積み木の柱は音を立てて崩れていった。一気に解かれた緊張感と疲労感に、その場にへたり込む。
「まだまだ修行が足りないな」
 凜の背をなぞったのは、言わずもがな蓮であった。不敵な笑みは性悪な根性をよく表していると凜は思っている。